コラム

既存製品の提供価値を再定義するバリュープロポジションのつくり方

顧客・競合・自社(自社製品)の情報を整理し、顧客への提供価値を定義する「バリュープロポジション設計」。変化し続ける市場のニーズに応え、ビジネスの成長と競争力を維持するために欠かせない取り組みの1つだ。

しかし、バリュープロポジションのフレームワーク自体は理解しているものの、自社の強みや訴求ポイントの見出し方がわからず、悩んでいる企業は少なくない。

2023年11月15日、パワー・インタラクティブは『既存製品の提供価値を再定義するバリュープロポジションのつくり方』と題したセミナーを開催。講義では、当社マーケティングコンサルタントの山田がバリュープロポジションに関する基礎知識と事例、具体的な設計手順を解説した。本稿では、当セミナーの内容をまとめている。

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自社独自の提供価値を見出す「バリュープロポジション」

バリュープロポジションは、企業が顧客に提供する価値をシンプルに表すものだ。顧客が求めているもののうち、競合企業が提供できない自社独自の提供価値を見出すことができる。

バリュープロポジションにおける「価値」と「競合」は、顧客視点で考える。自社が価値あるものだと認識していなくても、顧客が満足していれば、それは立派な提供価値といえる。また、自社が競合とは認識していない企業でも、顧客が課題解決の手段として認識しているサービスは競合となる。

図表1:バリュープロポジションとは

バリュープロポジションを設計するメリット

バリュープロポジションを設計するメリットは主に以下3つ。

1.顧客が自社製品に関心を持ちやすくなる
顧客が自社製品の提供価値を理解し、興味を持つようになる。結果的に自社の商談創出や収益拡大につながる。

2.価格競争からの脱却
他社にはない自社製品ならではの価値を明確化できる。顧客は自社独自の価値に費用を払うため、自社製品は価格競争から脱却できる。

3.ブランドイメージを固められる
社内でも自社製品の価値について共通認識が形成される。訴求すべき価値が明確になり、顧客へ届けるメッセージを統一できる。メッセージが統一されることで、製品のブランドイメージが固まる。

バリュープロポジションの活用シーンは多岐にわたる

バリュープロポジションは、さまざまな立場の人が異なる状況において活用できる。

ビジネスオーナー / 経営者
・新規事業や製品の立ち上げ
・既存事業の収益改善
・投資家への説明会における事業説明

製品開発チーム
・新製品開発
・既存製品の改修ロードマップ作成

マーケティングチーム
・マーケティング戦略設計
・Webサイトの構築、リニューアル
・マーケティングオートメーション導入

本講義では、特にマーケティングチームにおけるバリュープロポジションの活用方法に焦点を当てて解説を進める。

提供価値は定期的に見直しする必要がある

すでにバリュープロポジションを定義している企業も少なくないだろう。しかし、さまざまな要因によって市場の動向は変化しつづけており、一度定義したバリュープロポジションは定期的に見直す必要がある。

・政治的要因
例:インボイス制度の開始

・経済的要因
例:値上げラッシュ、円安の進行

・社会的要因
例:高齢化社会、新型コロナウイルス流行によるライフスタイルの変化

・技術的要因
例:生成AIの台頭

BtoB企業のバリュープロポジション設計事例

BtoB企業のバリュープロポジション設計について、2社の成功事例と取り組みのポイントを紹介した。

事例1:ベルフェイス株式会社『bellFace』

ベルフェイス株式会社は電話面談システム『bellFace』を提供する企業だ。電話に視覚情報を付与できるbellFaceは、従来型の訪問営業の半歩先を行く営業手段として多くの企業に導入されてきた。

しかし、新型コロナウイルスの流行が始まると、ZoomやTeamsといったオンライン会議システムの台頭によって解約数が増加した。この危機的状況を打開するために、同社ではバリュープロポジションの見直しをおこなう。

図表2:バリュープロポジションを見直す前のbellFace

顧客情報に注目してみると、解約ラッシュが止まらないなかでも金融業界だけは契約数が伸びていた。その理由を分析したところ、金融業界の個人営業ではZoomやTeamsが解消できない以下の悩みを抱えていることが判明した。

■金融業界の個人営業が抱える悩み
・主な顧客である高齢者はネットに不慣れで、メールアドレスを持っていないことが多い
・機密性の高い情報を取り扱っていることから、一般的なWeb会議ツールの使用に不安がある
・誤って他の顧客情報を開示するリスクがあることから、画面全体の共有を禁じられている

このような悩みを一挙に解決できるサービスはbellFaceに限られていた。

■再定義したbellFaceの提供価値
・システム利用にあたって顧客側の準備やメールアドレスは不要。高齢者でも扱いやすい
・金融業界の厳しい審査も通る強固なセキュリティ
・クラウドで事前に設定した資料だけを共有できる機能

同社は、競合にはない自社独自の提供価値を見直し、ターゲットを金融業界に絞りこむことで危機的状況を乗り越えた。

図表3:bellFaceのバリュープロポジション(現在)

事例2:Mipox株式会社『Ref Lite』

Mipox株式会社は、日本初のリフレクタークロス(再帰性反射布)ブランド『Ref Lite』を手がける企業だ。「リフレクタークロス」と聞いてピンとこない方でも、「工事現場で着用される作業着に付いた銀色の反射材」といえばイメージできるだろう。

Ref Liteのバリュープロポジションが見直される以前、この商品は主にワークウェアメーカー、工事現場で使用される道具のメーカーに向けて販売されていた。
しかし、業界では光の反射量や耐久性に関する工業規格の基準さえ満たしていれば、価格・納期条件の良い商品が選ばれる傾向にあった。そのなかでRef Liteは、低コスト・大量生産が可能な競合メーカーの商品に太刀打ちできない状況にあった。

図表4:バリュープロポジションを見直す前の『Ref Lite』

同社は自社製品の提供価値を見直すために、顧客インタビューを実施した。すると、自社では認識していなかった以下の強みが見えてきた。

■再定義したRef Liteの提供価値
・他社製品を大きく上回る反射技術
・多色展開
・多品種少量生産に対応した機動力のある工場

顧客インタビューから見出した自社ならではの提供価値は、ファッション業界のニーズに応える可能性があると考えた。

■ファッションデザイナー / アパレルメーカーが抱える悩み
・目新しい素材を探している
・伸縮性が高い素材を使った洋服に合うリフレクターがほしい
・在庫を持ちたくない

同社は、メインのターゲットをファッション業界に移すことで、競合他社には実現できないRef Liteの提供価値を活かすことに成功した。

図表5:『Ref Lite』のバリュープロポジション(現在)

事例から学ぶ、バリュープロポジション設計のポイント

2社の事例から、バリュープロポジション設計の3つのポイントを学べる。

・客観的な情報をもとにバリュープロポジション設計をおこなう
自社目線で評価した「価値」や「組織力」をもとにバリュープロポジションを設計した場合、その内容は自社にとって都合の良いものになりやすい。まずは顧客に関する情報を収集し、得られた客観的なデータからバリュープロポジションを設計する必要がある。

・自社の価値を客観的に見直して発掘
自社独自の提供価値に自ら気付くことは難しい。バリュープロポジション設計においては、Ref Liteの事例のように顧客の声を聞く工程が重要といえる。

・設計したバリュープロポジションは定期的に見直しする
環境の変化によって、自社独自の強みは次第に希少価値が薄れていく。一度バリュープロポジションを設計した後も、定期的に顧客ニーズや競合情報を収集し、バリュープロポジションの見直しをおこなうべきだ。

バリュープロポジションの設計手順

バリュープロポジション設計は、大きく7つの手順に分けられる。セミナーでは、バリュープロポジションの設計手順を自社サービス『企業情報解析ツールplus』を例として取り上げて解説した。

1.顧客の解像度をあげる

顧客の悩みへの理解を深めるために、まずは1次情報を収集する。情報収集の手段としては、以下のような方法が有効だ。

・ユーザーへインタビューする
・見込客へインタビューする
・商談履歴を確認する
・サービス詳細資料申込者の情報を確認する
・自社サイトにアクセスした企業の情報を確認する

ユーザーへのインタビューでは、どのような属性の人が何に悩んでいるのか、どの程度深刻なのかを確認する。自社製品に関する意見を聞き出すのではなく、あくまで顧客の悩みを理解するための情報収集に徹するのがポイントだ。

顧客の悩みに関する情報収集を終えたら、自社製品が解消できる悩みのうち、より深刻度が高いものを選定する。悩みの深刻度は「緊急性・必要性」「経済的影響」「頻度」の3つの観点から評価しよう。

・緊急性、必要性
法改正が迫っているなど、急いで対策を講じる必要がある

・経済的影響
悩みが解消された場合、顧客が大きな経済的リターンを得られる見込みがある

・頻度
高い頻度で悩まされている

2.競合製品の分析

競合製品を分析し、自社製品との違いを明確化する。競合は顧客が抱える課題によって変わるため、競合製品の分析は必ず1のステップを終えてから実施しよう。

■情報収集元
・競合企業のユーザー
・競合企業のWebサイト
・自社営業担当者
・レビューサイト
・SNS など

■重要視する情報
・主な取引先(事例として掲載されている企業)
・Webサイトのキャッチコピー
・機能
・価格
・顧客の声
・顧客の悩みに対して競合製品が価値を提供できるか

競合数社の情報と自社の情報を並べた「競合比較表」を作成すると、各社の特徴を比較しやすい。

3.提供価値の再確認、差別化要素の検討

提供価値に紐づく競合との差別化要素を検討する。差別化要素は、「技術」や「ノウハウ」などの組織的能力からイメージすると良いだろう。

ただし、成熟した市場では、機能・価格・サービスで差別化を図るのが難しいこともある。その場合は、購買体験や利用体験も含めて差別化要素を検討する。

差別化できる要素が見当たらない場合、無理に価値を絞りだそうとする必要はない。顧客に対して自社製品の提供価値が合わないことを明確にすることも「やらないこと」を決定するうえで重要なプロセスであるからだ。

図表6:提供価値の再確認、差別化要素の検討

4.自社製品の価値が活きるケースの見極め

図表7のようなシートを作成し、これまでの3ステップで整理した「顧客情報」「競合製品の分析結果」「自社の提供価値」を記入する。このシートをもとに、顧客の悩み(ペイン)の深刻度が高く、競合よりも自社の方が高い価値を提供できるケースを判定する。

図表7の例では、シート内の黄色く色付けした「Marketo導入2年目のユーザー」の「施策に変化を出したい、現状を打破する施策を見つけたい」という悩みに対して、最も自社製品の価値が活かされると判断した。

図表7:自社製品の価値が活きるケースの見極め

5.バリュープロポジションの言語化

バリュープロポジションを言語化する際は「誰に向けてどのような価値を提案するのか」が一目で伝わるメッセージを作成しよう。文章内には、提供価値を具体的にイメージできるよう、「数字」や「他社との差別化要素」を含められると良い。

パワー・インタラクティブでは下記の通り、『企業情報解析plus(Marketo連携サービス)』のバリュープロポジションを策定した。

820万拠点の企業情報とMarketo支援実績No.1のノウハウを活かし、Marketoで成果を出したい貴社の、マーケティング施策の幅を広げる。

6.社内への説明会を実施

完成したバリュープロモーションについて、社内の関係者への説明をおこなう。

説明会では、バリュープロポジションだけでなく、設計過程で収集した情報と考察内容についても共有する。また、設計したバリュープロポジションを施策へどのように反映するのかも伝える。

■説明会での共有内容
・完成したバリュープロポジションの内容
・顧客情報収集の結果
- 各インタビュー結果の詳細
- 各データ分析結果の詳細
- 顧客情報を収集するなかで挙がった考察(ターゲット属性、悩みと深刻度、顧客目線で考えた場合の競合他社)
・競合分析の結果
- 競合分析結果の詳細
- 競合分析のなかで挙がった考察(ポジショニングの整理)
・自社製品の提供価値が活きるケース
・完成したバリュープロポジションの内容(再掲)
・施策への反映について説明

7.施策への反映

バリュープロモーション設計中に挙げられた新しい施策や現状施策の改善案を、図表8のように「影響範囲×難易度」で整理する。

図表8:施策の優先順位を付ける

取り組みの優先順位や各施策の担当者も決定することで、バリュープロポジションを起点として事業の改善サイクルが動き出す。

バリュープロポジション設計における心構え

最後にバリュープロモーションを設計する際に覚えておきたい2つの心構えを紹介する。

短期間で作り上げる

バリュープロポジションの設計期間中も、従来のマーケティング施策は動き続けている。適切なターゲット設計がおこなわれていない場合は、機会損失が起きている可能性もあるだろう。
一刻も早くバリュープロポジションを構築し、施策に反映すれば、損失を最小限に抑えられる。各ミーティングの間隔をなるべく空けないようにするなど、短期間で進められるよう進行を工夫しよう。

施策反映まで責任を持つ

バリュープロポジションは、施策に反映されて初めて意味をなす。施策にかかわる関係者全員がバリュープロポジションの内容と背景を理解し、施策に反映するまで責任を持って進行しよう。

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バリュープロポジション研修サービスの紹介

パワー・インタラクティブでは、バリュープロポジション設計についての研修サービスを提供している。バリュープロポジションの概要に関する講義とともに、バリュープロポジションをつくり上げるまでの流れをワークショップ形式でレクチャーする。

図表9:パワー・インタラクティブが実施する研修内容の一例

自社だけでバリュープロポジション設計を進めることに不安がある方、より精度の高いバリュープロポジションをつくりたいと考えている方はぜひパワー・インタラクティブまで相談してほしい。

山田 俊也

マーケティングコンサルタント

山田 俊也

マーケティング戦略策定

BtoB企業を中心に、マーケティング戦略設計から施策の実行までサポート。Marketo Engageを使ったコンサルティングの実績を多く持つ。
社外に向けた無料・有料セミナーの企画、講師も担当。のべ50回以上の登壇実績。Adobe社が提供するMarketo Core Concepts Ⅱの講師を勤める。
育児のための長期休暇を取得、仕事復帰後は子育て奮闘中。

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