コンテンツマーケティングを推進する際、「自社に足りないコンテンツが何なのかを整理できていない」「効率的な商談創出に繋がらない」といった課題に直面することがある。安定的に有望見込み客を創出するためには、顧客の検討プロセスに合ったコンテンツを用意し、計画的に届けることが必要不可欠だ。
パワー・インタラクティブでは2024年2月27日、「顧客の検討プロセスに合ったコンテンツを届けて有望見込み客を創出するには」と題した2部制のセミナーを実施。当社コンテンツ編集長の岩野とマーケティングコンサルタントの水野が、有望見込み客創出を目指したコンテンツ計画の作り方と、有望見込み客を創出するためのメールコミュニケーションのコツを解説した。本コラムでは、岩野による第1部の講義内容をまとめている。
顧客の検討プロセスに合ったコンテンツを制作する際は、まず自社にとっての有望見込み顧客(以下、MQL)を定義する必要がある。
MQLは、マーケティング活動によって創出された有望見込み顧客を表す用語だ。
パワー・インタラクティブでは、業種や従業員規模、役職といったターゲットの「顧客属性」と、お問い合わせフォーム入力やサービス資料ダウンロードなどの「行動情報」を分析し、MQLを抽出している。
ターゲットが求める情報を提供するためには、顧客の行動プロセスとコンテンツ形式ごとの役割を把握する必要がある。
BtoBビジネスにおいて、顧客は情報収集・課題認識・比較検討・稟議・契約・継続といったプロセスを経て購買行動を進めていく。
図表2の通り、プロセスごとに顧客の行動や必要とする情報は変化する。
例えば、課題を認識する前の「情報収集」段階において、顧客は身近な人との会話、SNSや気になる書籍などから広く情報を収集する。情報収集していると、何かの拍子に課題を認識することがある。課題を認識した顧客は、インターネットで解決策を調べたり、課題と関連性の高いテーマのイベントに参加したりするなど、具体的なアクションを起こすようになる。課題解決に繋がりそうなサービスを見つけ出すと、いよいよ具体的な検討段階に入る。法人の場合は、他社のサービスと比較検討した上で社内稟議を上げ、最終的な契約に至る。
このような顧客行動の中で自社ができる限り介入し、比較検討の対象となるためには、顧客の行動に合わせた情報を適切に提供する必要がある。
一口に「コンテンツ」と言っても、その種類は様々だ。情報をまとめたものをコンテンツと定義するのであれば、記事のほか、ホワイトペーパーやウェビナー、オフラインイベントやホームページのサービス詳細ページもコンテンツと捉えられる。
コンテンツはその形式によって担う役割が異なる。例えば、オウンドメディアに掲載する認知獲得系の記事は認知や接点の獲得、コーポレートサイトに掲載する課題解決系の記事は、エンゲージメント向上の役目を果たすだろう。
コンテンツ制作の目的から逆算して形式や内容を企画すれば、顧客の購買行動をサポートするためのコンテンツは揃っていく。
自社に足りないコンテンツは、以下3つのステップに沿って見つけ出せる。
ステップ1. 顧客の行動プロセスに合わせて、今あるコンテンツの種類を配置する
ステップ2. KPIの目標数値と現状数値を照らし合わせる
ステップ3. ボトルネックになっているプロセスのコンテンツを強化する
ここからはそれぞれのステップの詳しい内容を紹介する。
まずは、自社が現状用意できているコンテンツを洗い出し、顧客の行動プロセスごとに整理する。
図表4では、全てのフェーズに対してバランス良くコンテンツが配置されている。しかし、実際には、あるフェーズに対応するコンテンツが存在しない、もしくは不十分であることも珍しくない。
次に、KPIの目標数値と現状数値を照らし合わせ、どのプロセスに課題があるのかを把握する。
課題のあるプロセスをデータとして見える化することで、優先的に作成するべきコンテンツを判断しやすくなる。
最後に、KPIの遷移の中でボトルネックになっているプロセスを洗い出し、そのプロセスを強化するために必要なコンテンツを特定する。
このステップで重要なのは、強化が必要なコンテンツの中でも優先度が高いコンテンツを見つけ出すことだ。
図表6の例では、Webサイト閲覧から新規リード獲得、新規リード獲得からMQLの遷移率が目標数値を下回っている。特に、新規リード獲得からMQLへの遷移率は、目標数値が20%であるのに対して現状数値が10%であることから、MQLの遷移率の方がより大きな問題を抱えていることが分かる。
この場合、MQL創出に繋がる事例記事、サービス詳細資料、サービス詳細ページ、ウェビナー、オフラインイベントなどのコンテンツを優先的に強化する必要があると判断できる。
強化すべきコンテンツを見つけ出したら、次にコンテンツを企画・制作して公開するためのコンテンツ生産計画の作成に進む。ここでは、予定管理方法と意識したいポイントを紹介する。
コンテンツの生産計画と予定の管理には、コンテンツ企画・制作の計画を一覧としてまとめた「コンテンツカレンダー」の活用がおすすめだ。
コンテンツカレンダーにはコンテンツ形式・企画目的・仮タイトル・制作者・公開日・ステータスを記載する。
これらの項目を記載したコンテンツカレンダーをもとに、必要なコンテンツを積み上げていくことで、コンテンツ不足の問題を徐々に解消していく。
コンテンツカレンダーを作成する際に考慮すべきポイントは、以下3つ。
・KPIから逆算して必要なコンテンツ量と配分を決める
自社が集中的に増やすべきコンテンツの種類と量は、現状のKPIから逆算して決定する。
まずは自社のKPIと現状数値の差分を算出する。次に、コンテンツ形式ごとに1コンテンツあたりの平均PV数、平均新規リード獲得数、平均MQL創出数を算出する。すると、目標数値に対して不足している数値を補うために公開・実施するべきコンテンツ量が見えてくる。
・必要なコンテンツ量を生産するための体制を作る
必要なコンテンツ量を算出すると、現状の体制では目標達成が難しいことが判明することもある。その場合は、目標レベルを落とすのではなく、生産できる体制づくりに取り組もう。
生産体制をつくるために考えるべきことは多岐にわたる。検討項目の例としては、以下の項目が挙げられる。
・コンテンツの生産に必要な時間・能力・ツール
・チーム外メンバーの協力を得る方法
・効率的にコンテンツを生産するための業務フロー
・体制を維持するために必要な予算
・企画をできるだけリサイクルする
工数や労力を要するコンテンツ制作を効率的に実行するには、企画の「リサイクル」が有効だ。苦労を経て生み出したコンテンツを単発で完結させるのではなく、他のコンテンツへと展開していこう。
例えば、図表10のように記事を制作後、その内容をもとにホワイトペーパーとメルマガを制作する。さらに、ホワイトペーパーの内容をもとにウェビナーを開催し、録画をアーカイブ配信する。すると、1つのコンテンツから派生的に4つのコンテンツを生み出せる。
最初に制作するべきコンテンツの種類や、他の形式への展開方法の最適解は状況によって異なる。自社にとって最も効率的な運用方法を見極めよう。
最後に、パワー・インタラクティブにおける取り組みのなかから、コンテンツの生産を無理なく継続するためのアイデアを3つ紹介する。
パワー・インタラクティブでは、コンサルタントの知見を社外へ発信するために記事やホワイトペーパー、ウェビナーなどのコンテンツを制作している。しかし、コンサルタントに記事の執筆を依頼した際、スケジュール通りに原稿を回収できないことが頻繁に起こっていた。
コンサルタントに詳しく話を聞くと、何をどう書けばいいのか分からず、執筆の前段階である前提の整理段階で手が止まるケースが多いことが分かった。
この問題の解決策として、コンサルタントに記事執筆を依頼する際は企画の趣旨やターゲットをまとめた図表11のようなフォーマットも渡すようにした。
社員が記事の執筆に苦手意識を持っている場合は、ライターにインタビューと記事の代筆を依頼する方法もある。
事例記事を量産するために、パワー・インタラクティブでは、一部のコンテンツについてライターにインタビューと執筆を任せている。
インタビューの密度を上げるためには事前の準備が欠かせない。そこで、インタビュー実施前には案件情報を記載したフォーマットを取材対象となる社員から提出してもらうようにしている。
コンテンツ制作の効率化と負担軽減に向けて、生成AIを活用する手もある。自社内に眠る情報やWeb上の情報を生成AIに学習させれば、以下の業務を任せることも可能だ。
・企画案出し
・企画案詳細、記事構成のたたき台づくり
・記事原稿作成
・作成済み記事原稿の校正
生成AIを活用する上での注意点は以下2つ。
・生成AIは完璧ではない
・最終的に人間がコンテンツを編集するというステップを欠かさない
自社のコンテンツ制作フローを洗い出し、そのなかから生成AIが代替できる業務を任せることで、コンテンツ制作の効率化と品質向上を両立できる。
コンテンツマーケティングでは、つい集客数や公開本数に目がいきがちだ。しかし、コンテンツ制作の本来の目的はMQLの創出であることを忘れてはならない。
ターゲットの心を捉える魅力的なコンテンツを常に発信し続けることこそが、MQL創出への近道となる。顧客の行動プロセスごとに、充実したコンテンツを提供できるような仕組みづくりに取り組もう。
2024.04.26
2024.04.26
2024.04.20