事例

アットホーム株式会社 不動産業界のBtoBマーケティング強化プロジェクトは3年目に突入 トライ&エラーでデジタルマーケティングを着実に前進させる

アットホーム株式会社 業務支援部
デジタルマーケティングプロジェクト 次長 森田 真一 氏
デデジタルマーケティングプロジェクト サブプランナー 湯本 宝 氏

1967年にヨコハマ物件配布センターとして創業され、図面配達業務を皮切りに不動産会社へのサービスを開始したアットホーム株式会社(1987年に社名変更)は、販売管理システムやオンラインサービスなどデジタルテクノロジーの活用をいち早く開始した先進的な企業です。不動産会社間情報流通サービスをはじめ、消費者向け不動産情報サービスや不動産業務支援サービスなど、不動産業界全体の活性化を目的とした幅広い活動を行っています。2017年には「デジタルマーケティングプロジェクト」を立ち上げ、様々な取り組みにチャレンジしながら、今もなお前進が続いています。本稿では、アットホーム株式会社 業務支援部 デジタルマーケティングプロジェクトの森田 真一氏と湯本 宝氏にインタビューし、同社のデジタルマーケティングの取り組みについてお話を伺いました。

アットホーム株式会社 業務支援部 <br/>デジタルマーケティングプロジェクト 次長 森田 真一 氏 <br/>デデジタルマーケティングプロジェクト サブプランナー 湯本 宝 氏

営業がフォローしきれないサービスラインナップを「デジタルマーケティングプロジェクト」がサポート

デジタルマーケティングプロジェクトを立ち上げた背景について教えてください。

森田氏 弊社アットホーム株式会社は、不動産会社間の情報流通や業務支援のためのBtoBサービスを提供しています。物件を成約するための媒体だけでなく、不動産業務全般をフォローするためのサービスも含めた幅広い展開を行っています(図表1参照)。

営業がフォローしきれないサービスラインナップを「デジタルマーケティングプロジェクト」がサポート

図表1:アットホームの事業領域

たとえば、「自社のホームページを立ち上げたい」というニーズに応える不動産会社向けホームページ作成ツールや資格の取得を支援するサービス『アットホーム スタディ』の提供、さらに細かいものでは、店頭に飾るのぼりの作成なども行っています。不動産会社のニーズに応えるためにサービス開発を進めてきた結果、いまやIT関連サービスだけでも30点以上にも上るサービスラインナップとなりました。豊富なラインナップは強みではありますが、サービスが増えるにつれてどの顧客にどのサービスを提案するべきか、顧客の課題、興味関心を把握することがより重要になってきました。



そこで、不動産会社向けのBtoBマーケティングを強化することを目的とし、2017年8月に「デジタルマーケティングプロジェクト」を立ち上げることになったのです。これまでも10年以上前からメールマーケティングを行っていましたが、より細やかに会員の皆さまをフォローできるようにしたいと考えたのです。

弊社では、不動産会社が加盟する会員組織を運用しています。営業担当者は加盟店である不動産会社に3日に1回の頻度で訪問してコミュニケーションを取っており、Face to Faceの対応がベースです。プラスαとして、不動産業務における課題の対処と、営業が手薄になっている領域のフォローをデジタルマーケティングプロジェクトのメンバーで担っていくことになりました。

『MAで何ができるのか』からスタート、2ヶ月でMAツールを選定

デジタルマーケティングプロジェクトはどのように進められたのですか?

森田氏 デジタルマーケティングプロジェクトのメンバーは3名です。1名は、不動産会社向けのBtoBメールマーケティングの経験者、2名は営業企画の経験者です。現在の業務は、統合管理、企画・調整、データ管理といった役割に分けて進めています。

湯本氏 プロジェクトの立ち上げはちょうどMAが注目され始めた頃で、MAを活用する前提でスタートしました。最初の業務は、"MAを理解する"ことです。私自身、当プロジェクトが立ち上がる前からMA関連のセミナーに参加していたので、MAの存在自体は知っていたのですが、本当に有効なのか、どのMAツールを選べば良いのかなどわからないことだらけでした。まさに手探り状態でのスタートです。とにかくネットで情報収集し、MAツールを8~10本リストアップ。その後、片っ端から資料を集めてベンダーに来社いただき、話を聞きました。パワー・インタラクティブのセミナーにも参加させていただきましたね。

森田氏 2017年8月にプロジェクトを立ち上げましたが、本格的に動き出したのは9月です。12月までにはMAを導入するという目標を立てていたので、実質2ヶ月程度で選定を行いました。

MAを選定する中で、私たちは大きく3つのタイプに分けました。

①機能は限られているが、スモールスタートに向いた製品
②スタートさせるには大変だが、ハイエンドな製品
③その中間に位置する製品
最初に外したのは、どっちつかずとなる③の製品です。機能が絞られていてわかりやすい①の製品は最後まで選択肢のひとつとして検討していましたが、最終的には、多機能でさまざまなニーズに対応できる②のMAツールに決定しました。選定したのは、『Marketo(マルケト)』です。サービス数が増え、しかも営業担当者一人が受け持つ不動産会社の数も増加していたため、そこをデジタルマーケティングでフォローするには、多機能なMarketoが必要という結論に達したのです。

直近1年間で資料請求件数がケタ違いに増加

デジタルマーケティングの具体的な施策をお聞かせください。

森田氏 最初は「クレジットカード決済サービス」や「賃貸管理システム」など、会員の皆さまの関心が高いサービスからスタートしました。まずは基本的なスコアリングやメール施策によってリードの行動が見えるようになり、結果としてデジタルマーケティングの経験値やノウハウを蓄積できたのは大きな収穫です。

湯本氏 これまでは、メール配信時に資料請求を受け付けていましたが、サイトにはフォームは設置していませんでした。Marketoの導入に伴い、資料請求フォームをサービスごとにサイトに設置したところ、この1年間で資料請求件数はケタ違いに増えました。

森田氏 現在のフローは、まだ加盟していない新規のお客様から物件掲載に関する資料請求があった際、即営業と連携する形です。3ヶ月ほど試してみたところで"営業担当者がその後どう動いたか"を調査したところ、ほぼ全ての資料請求者にアクションを起こしていました。そのうち大半が相談に至り、契約も多数出ているという成果が確認できたのです。ただし、中には資料請求から直接契約に繋がりづらいものもあります。そうしたサービスは情報提供を継続的に行うようにし、サービスによって施策を切り分けていく必要があることがわかってきました。

営業連携強化で、送客の精度アップに取り組む

森田氏 "営業連携"も意識し、営業部門と相談して、「不動産データプロ」「ホームページ作成ツール(CMS)」といったテーマのサービス施策を行いました。

湯本氏 しかし営業連携を考えると、スコアリングだけでは精度が足りません。そこで、「ホームページ作成ツール」の施策を行う際、テスト的にインサイドセールス活動を取り入れ、専門家がヒアリングして提案するスタイルを試してみました。すると案件化率が1.4倍、契約率が2倍になるなど大きな成果を得たのです。担当したのは「ホームページ作成ツール」の営業経験があり、営業担当者への指導も行い、さらにヒアリング能力も高いというスペシャリストでした。このようなインサイドセールス活動を取り入れることで営業担当者が不要な動きをしなくて済むことを確認でき、今後の施策を考えるうえで重要なノウハウを得ることができました。現在はサービス開発担当者と連携して、私も含め数名でインサイドセールス活動を行い、加盟店にヒアリングをかけています。毎週ミーティングの場を設けてノウハウを蓄積しているところです。

森田氏 各サービス施策においてある程度の成果が出てきているのは、とても喜ばしいことです。しかし、もともと私たちの営業担当者は高い頻度で加盟店を訪問しているため、得られた成果がデジタルマーケティングによるものなのか、営業担当者の普段の活動によるものなのかの判断が難しいという側面があります。デジタルマーケティングとしての効果測定精度を高めていく必要があります。

営業やサービス開発等、他部署との連携体制を確立

営業部以外でも部門間の連携はとられているのですか?

森田氏 他部署にて、月2回+不定期のペースで配信している加盟店向けのメルマガがあるのですが、メルマガ内で紹介したサービスの資料請求が増えることが明確になりました。そこで、メルマガから資料請求した方をデジタルマーケティングプロジェクトで引継ぎ、フォローすることにしています。

湯本氏 一方、他部署とは戦略の調整に苦労する場面がありますね。デジタルマーケティングで事前にストーリーを作ってから動くとなると、それなりの時間と手間がかかります。実績がない中でマーケティングの意義を理解してもらうのは容易ではありませんでした。しかし、現在はサービス開発担当から「売るための施策としてMAをうまく使えないか」と相談があがってくることも珍しくありません。他部署と連携をとる上でも、資料請求やセミナー集客増加といった成功事例を見せて、社内アピールを積極的に行う必要があると感じています。

営業やサービス開発等、他部署との連携体制を確立

写真左から森田氏、湯本氏

約9万件のデータをMarketoに集約し、CData Syncで営業と行動履歴データを共有

現在Marketoではどのくらいのデータ量を蓄積しているのですか?

森田氏 最初にMarketoへインポートした加盟店データは5~6万件でしたが、そこから随時、新規の加盟店データや資料請求、名刺情報などを追加していった結果、現在では約9万件のデータが蓄積されています。また、Marketoに蓄積された行動履歴データを営業と共有するために、「CData Sync(シーデータ シンク)」というデータ連携ツールを導入して、イントラで営業先ごとに行動履歴が把握できるようにしています。Marketoでリードごとの行動履歴データを取り出すのはかなりの手間がかかりますが、CData Syncを入れたことで約8割の負荷削減が実現できました。

8割とは大きな負荷削減ですね。

森田氏 はい。ただ、リードの行動履歴データを他部署と共有できる仕組みを構築しましたが、実際の営業活動には繋がっていません。多くの営業担当者が興味を示してくれましたが、「Web上の行動がわかったところで、直に目にすることのない行動だけではアプローチしづらい」とのことでした。むしろ資料請求の方がわかりやすい反応であり、営業訪問もしやすいようです。結局、行動履歴データは興味関心分野を示す裏付けにはなるが、営業アクションには使いづらいと考えています。

スコアにおいても同様で、スコアが蓄積されたタイミングで営業に渡しても案件化にならないケースが多く、効果は低いという認識です。営業はスコアのしきい値越えより、直近の動き、すなわち鮮度を重視して対応します。なんでもリードをじっくりと育成すればよいというものではなく、迅速に営業へ渡すことも重要です。サービスごとに見極めが必要ですし、どのようにスコアと鮮度を組み合わせるか検討したいと思います。

新規入会促進にデジタルマーケティングの手応えあり

湯本氏 営業活動への活用にはまだまだ課題がありますが、最近では営業から、新規入会促進施策の依頼があがってくるようになりました。営業担当者が1回訪問して入会に至らなかったところを、Marketoで情報提供し、興味関心を掘り起こして営業に送客、営業が再度お声がけしたところ入会に至ったというケースが出てきたのです。

森田氏 弊社の場合、不動産業の開業があると営業がご挨拶に伺い、その後何度も訪問して関係を構築し、新規会員化に繋げるのが基本的な営業フローです。これまでは営業担当者が個々に名刺を保有しており、会社全体での名刺管理は行っていませんでした。Marketoの導入に合わせて名刺管理ツールSmart Visca(スマート ビスカ)を入れ、まだ入会されていない不動産会社へメールを配信し、よりお客様に適した情報をお届けするしくみを構築しているところです。現在は、特定の営業エリアで進めており、メール送付後の反応をきっかけに、営業が動く動機づけにもなって、モチベーションアップにも繋がっているようです。メールをもっと組織的に使おうという話も出ています。

長いストーリーを描いた施策展開へ一歩進む

湯本氏 Marketoを活用した施策により、サービスによっては具体的な成果が上がってきました。営業だけでは手が行き届かなかった加盟店へのサービスサポートが、デジタルマーケティングプロジェクトによって少しずつ進んできたと思います。

また、セミナーの集客にもデジタルマーケティングを活用中です。たとえば先日、首都圏内の加盟店に案内メールを配信したところ、30名の定員に対して120名の応募があったため、抽選に漏れた方はメールフォローする形をとりました。加盟店向けセミナーからリード獲得が目的のセミナーに内容をシフトしたのが功を奏したのかもしれません。

森田氏 入会後の対応も検討しています。ある一定の期間までにサービスの利用がなければ離脱される可能性が高いことがわかってきたので、最近はいかにその期間までに利用定着していただくかを重要視するようになりました。これまでも営業担当者各々が加盟店のフォローを行ってきましたが、MAを活用することでより細かいサポートができるようになると考えています。試行錯誤しながらさまざまな施策を続けてきましたが、実施するべきことを着実に繋げてきた結果、少しずつ長いストーリーを描いた施策を展開できるようになってきました。

図表2:「デジタルマーケティングプロジェクト」の歩み

時期 施策
2017年 8月 プロジェクト立ち上げ
12月 マーケティングオートメーションツール「Marketo」導入
2018年 2月 「賃貸管理システム」「クレジットカード決済サービス」の施策開始
10月 特定エリアにて入会施策開始
名刺情報の活用についてテスト開始
2019年 1月 CData Syncによるデータ管理開始
2月 営業へリードの行動履歴を共有
3月 インサイドセールスのテスト実施
7月 新規入会の資料請求者を営業へ引き渡し
8月 サービスごとの資料・問合せフォーム順次設置
名刺管理システム「Smart Visca」の導入
「Salesforce」契約、稼働に向けての準備開始
10月 セミナー案内メール配信

「デジタルマーケティングプロジェクト」3年目の課題

来期に向けた取り組みを教えてください。

森田氏 これまでの取り組みから、トライ&エラーを繰り返さなければいけないという実感を得ました。今後の展開としては大きく3点あります。

①入会後の加盟店へのアプローチ
②インサイドセールス活動の業務化
③営業連携後の見える化

「①入会後の加盟店へのアプローチ」においては、これまで非加盟店の名刺を集約して情報提供することが中心でしたが、これからは加盟店の情報も入力し、属性や行動に応じたセグメント別のメール配信を実現していきたいです。そうすることで、より必要とされる情報をお届けすることができると考えています。

「②インサイドセールス活動の業務化」は、これからどのようにインサイドセールスの体制を組んで業務として進めていくかです。弊社のインサイドセールス活動はヒアリング&提案がベースの活動です。メンバー構成や業務フローの落とし込み、また効果をどう示すか等、これから固めていく予定です。

「③営業連携後の見える化」においては、デジタルマーケティングの成果を把握するためにも、MarketoとCRMツール「Salesforce(セールスフォース)」との連携が重要であると認識しています。すでに具体的に取り掛かっていますが、来期は運用が回せるところまでもっていきたいです。

今後はデジタルマーケティングプロジェクトに所属する3人の役割をより明確化し、さらに試行錯誤を繰り返しながら、アットホームのデジタルマーケティングの形を固めていきたいですね。

プロフィール

森田 真一 氏
アットホーム株式会社
業務支援部 デジタルマーケティングプロジェクト 次長

1995年アットホーム株式会社入社。入社時より営業部の業務支援業務に従事し、社内情報共有ポータルサイトや自社独自のSFA開発を担当。営業統括部門を経て2017年にデジタルマーケティングプロジェクト次長に就任。現在はMarketoの運営を進めながら組織化に向けた取組みを行う。

湯本 宝 氏
アットホーム株式会社
業務支援部 デジタルマーケティングプロジェクト サブプランナー

2002年アットホーム株式会社入社。入社時より加盟店向け機関紙「at home TIME」の取材・編集、メールマーケティングの業務に従事する。2017年にデジタルマーケティングプロジェクトに配属。MAシステムの導入から運用開始まで携わる。現在は、Marketoを用いた商品・サービスごとの施策の企画・運用、メール制作などを担当。

アットホーム株式会社 サービス紹介サイト https://business.athome.jp/

プロフィール

アットホームのあゆみ

右から1人目は、弊社担当コンサルタント

インタビュー後記

MA導入を前提に、デジタルマーケティングプロジェクトを立ち上げる企業は珍しくありません。 ただし、MAを導入後、本格的にデジタルマーケティングを稼働している企業はそう多くはないでしょう。 MAを導入することが目的となってしまい、実施している施策はメール配信に止まり、データを活用したデジタルマーケティング施策は置き去りにされがちです。

しかし、アットホーム様のデジタルマーケティングプロジェクトは違います。プロジェクト立上げ後早々に2ヶ月でMAを決定、その後はWebの改善も並行して進めながら、データ統合、営業連携等、次々に施策を展開してきました。中には失敗もしつつ試行錯誤を繰り返しながら、3年目に入った今も前進を緩めるどころか拡大する一方です。

アットホーム様の年表からは、電話・FAXサービスからオンラインサービス等、時代の最新技術を使ったサービス提供が行われてきた経緯が確認されます。 その流れは現在のデジタルマーケティングに引き継がれています。2020年の挑戦が楽しみです。

インタビュー実施日:2019年12月24日

広富 克子

取締役/執⾏役員

広富 克子

コンテンツマーケティング支援

神⼾⼤学経営学部卒業。住友ビジネスコンサルテイング株式会社⼊社。マーケティングリサーチ・コンサルティング業務を中⼼に活動し、その後AJS(オール⽇本スーパーマーケット協会)にて、プライベートブランドの商品開発・営業に従事。2003年10⽉、株式会社パワー・インタラクティブ⼊社。2006年4⽉、取締役執⾏役員に就任。全社営業戦略を統括する。

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